確かに、私は一瞬ためらった。

私が想像していた以上に、彼の状況は苛酷で、そして何より夢に対してひたむきだった。

彼の声に惚れ込んだのは確かだけれど、しかしどこかミーハーな気持ちでいる自分に、これからも彼に関わっていく資格などあるのだろうか。

彼に問題があるんじゃない。

私に問題があるのだ。


言葉を無くしている私に、彼は切なそうに微笑んだ。

「いいんですよ、無理しなくて。この間のことなら俺は全然ーー」

「……たしか、2500円でしたよね?」

「……え?」

今度は彼が驚く顔をする番だった。

「チケット買います。買わせていただきます」

私も負けじと、彼の目を真剣に見つめ返した。


もう後には引けない。

しかし彼の声には魅力がある。

彼を、桐原周也を、これからもずっと応援していきたい……この気持ちは誰にも負けない!


「ああ……ええと、はい」

私はさっと鞄から愛用の長財布を取り出すと、ぱぱっと2500円を手渡した。

あわてて彼もショルダーバッグからチケットを取り出す。

薄くて手作り感溢れるチケットには、聞いたことのない小劇場の場所が印刷されていたが、ネットで調べればたどり着くことは容易だろう。

「楽しみにしてますね」

にっこりと笑って、私はそれを丁寧に手帳に挟み込む。

変わって彼はなんだか気圧された表情のままだ。