しかし、イベントもこれで終わりという段になって


【ではこの曲でお別れしましょう!限定ユニット:チーム古場小によるエンディング曲で『WE ARE BIRIKEN!』】


アナウンスと共に会場が暗くなると、ステージ右にスポットライトが当てられると


(桐原さんっ?!)


私の目は、ステージに釘付けになった。


ライトの真ん中に立つ桐原さんが、前奏もないままラップを口ずさむ。


(――え?え、ら、らっぷぅ~?!)


新たな桐原さんの一面に驚く他ない。


相当な練習をしたのだろう。


流暢なラップを前奏代わりに、ステージ全体が明るくなると、桐原さんを含んだ淵さん・東城さん・邑内さん・村瀬さん5人のユニットによる歌とダンスが始まった。


夢中になって彼の姿を追う。


アーティストさながらに笑顔でステージ中を駆け回り、曲間のラップパートを歌う桐原さんと目が合うと、ばちんとウインクを返された。


みるみる内に顔が火照る。


さっきまであんなに自己嫌悪ばかりだったのに、彼の笑顔一つで元気になってしまう単純な自分が嫌いではない。



ステージで笑顔を振りまき、ここまでの苦労を微塵も感じさせず、まさにエンターテイナーとして会場を盛り上げている彼を誇らしく思うと同時に、勇気をもらった。


イベントが終わって、会場の外で

「桐原周也、むっちゃ踊り上手かったね」
「声超ヤバい、イケボやばいよー」
「たっくんの歌も聴きたかったなぁ」

そこここで交わされるイベントの感想が耳に届いても、私の気持ちはもうブレない。


変な独占欲も優越感も自己嫌悪も抱かない。


(声優、桐原周也のファンとして、彼女として、これからも彼を応援し続けるし、支え続ける――!)


空に浮かんだ三日月に、そう誓うのだった。