直接訊いた訳ではないが、メールの文面から察するに、桐原さんが悩んでいるのは歌とダンスだ。


舞台俳優としてのレッスン経験もあるとはいえ、ミュージカルを専攻していた訳ではなさそうだし、声優イベントで歌とダンスと言えば、アイドル系のスキルを要求されているはずで。


私も運動は好きだが、ダンス――いわゆるエアロ系のスタジオはてんで苦手なので、彼の苦労には同情するばかりだ。

誰にだって向き・不向きがあるだろうに、要求にしたがって何者にでもならなければならない役者稼業を選び取ったこと自体尊敬してしまう。



プレミアム上映会のイベントはと言えば。



昨年末に出たプロローグDVDとドラマCDの同時購入者に配られた応募ハガキで抽選5000名様に……という触れ込みにもちろん応募していたが、見事にハズレてしまった。

なので、残念ながら観に行けませんと伝えると、桐原さんから関係者席のチケットが送られてきた。

イベント出演者は今をときめく人気声優さんばかりなので、ファンの方々には本当に申し訳ないけれど、彼女特権としてここは大目に見ていただきたい。




――そしてイベント当日。


結局、二人の気持ちを確かめ合ったあの日から、一度も顔を合わせることがないまま、当日を迎えた。


年度末進行で職場はまさに戦場の様子を呈していたが、負けじと鬼の形相でケリを付け、会場であるK会館まで急いだ。


開場から30分以上が経過しているはずなのに、入り口は人でごった返している。


《ただいまお呼びだししているのは、整理番号560番から580番までのお客様です!整理番号560番から……》


原作が少年マンガなのに、9割以上が女性参加者というのはやはり声優人気か。

特に今回は墨染環役の上野巧臣さんの存在が大きい。