涙目の私を見下ろして、彼はぽかんと口を開けた。


「……いい部屋じゃないですか。だって真下さん自慢の部屋なんでしょう?」

「へ?」


今度は私が間抜け面をする番だった。


(何を話したんだ、酔った私は――!)


「そりゃあ『寝室を見せてあげる』って言われたときは、男としてやましい気持ちがまったくなかったって言えば嘘になるけど……真下さんすげー酔ってたし、幸せそうな顔して寝ちゃったから――」

「私が?私があの部屋を進んで桐原さんに見せたの?!」

「そうですよ。『人に話したことはないけど、自分の唯一の心の拠り所だ』って――って、もしかして真下さん覚えてない?!」

「……」

言葉無くうつむく私の前で、突如桐原さんがしゃがみ込んだ。


「~~……っ!良かったマジで手ぇ出さなくて。本当危なかった~」

「え、え?」

私も並んで膝を折る。


「記憶ない相手とするなんてサイテー野郎のすることじゃないっすか。っつーか真下さんも気を付けて下さいよ。俺以外の男と二人きりで酒とか絶対許さないっすからね!危なすぎますよ、マジで!」

「もしかして、私、誘った・とか?」

「……そーゆー直接的な誘い文句はなかったっすけど……その――」

「何、何?私何を言ったの?!」


口元に手を当てて、ひとしきり言葉を探してから、彼は言った。


「……台詞、は超言わされました。『過春』の」

「ぶっ!」