同じフロアの残業組が、弁当を片手に戻ってきていた。

この時期にはよくある光景だ。


「それでまた声が良かったよねぇ」

「うんうん!『まだ残ってる人っていますか?』って、この時期はほとんど残ってるけど、誰か待ってる感じだったね」



「あの」


気が付くと、私は彼女たちに声を掛けていた。


「その人ってメガネ……してました?」


同じフロアでも部署が違えば会話をすることなどほとんどない。


驚いた様子の彼女たちだったが、


「あ、うん。メガネしてて髪がオレンジで……」

「上下黒のスーツだったね」


「ありがとうございました!」

勢いよく頭を下げると、私はエレベーターホールに向かって駆けだしていた。


何度も下りのボタンを押す。


上手く居合わせたエレベーターに乗り込み、エントランスを抜けるとそこには――


「ええーっと、だから俺は人を待っていて」


二人の警備員に押し戻されている桐原さんが・いた。


「ここ敷地内だから、とにかく出て」