「……あ、待って!」 「ん? なんだよ。風邪ひくぞ?」 慌てて彼の手を引き止めれば、不思議そうに言って眉を顰める。 「うん。そうなんだけど……」 そうなんだけどさ。でもさ。 この雨は、今の菜乃子にちょうどいいからさ。都合が良いから。 「なんだよ?」 「さっきの話の、続きだよ」 首を傾げる彼に言った瞬間、佐野くんの表情が曇った。 ――さっき。2時間以上前。 陽ちゃんのお母さんから、電話がかかってくる前までの話。