君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

歯を磨こうと思ったけれど、いつも髪の毛が濡れない様に留める為に使っているダッカールを、昨日リビングでゴロゴロしながら放り投げたままだった事を思い出して、洗面台からリビングへ移動した。

ふと、リビングに入る前、玄関の外に誰かが立っているのが見えた。
自宅の玄関のドアは、どこにでもある一軒家と同じ造りのドアだけれど、ドアの真ん中の一部が磨りガラスの様になっている為に、お客さんや郵便屋さんが来れば、その人影がすぐに分かった。
外からはもちろん中は見えない。
中からも、人影はぼんやりとしか分からないから、「誰が来た」とまでは、はっきりとは分からないのだ。

誰かが家の前に立っている。
郵便屋さんかとも思ったけれど、今日は日曜日。配達はお休みだと、すぐに気がついた。
魚眼レンズから覗こうとも思ったけれど、突然の来訪者に、息を潜める私がいた。
覗いてはいけない様な、おかしな罪悪感に包まれる。