君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

藤原さんと二人で話をした次の日、私はもう一度ちゃんと、夜くんと話がしたくて、彼に電話をした。
けれど、その番号はすでに持ち主を失ったまま、どこにも繋がらず、音声案内の女性の声だけが、何度も繰り返された。

あと一日早ければ、藤原さんと話をした直後にでもすぐに電話をしていれば、まだ繋がったかもしれないのにと、私はひどく後悔した。
そして私は、その時初めて、夜くんの住むマンションも知らなかった事に気がついた。

私が夜くんに会いたいと思うよりも先に、夜くんは私に会いにきてくれた。
夜くんに会えれば場所なんてどこだって良くて、私は彼の住む場所を意識した事が無かったのだ。
勤務先なんてそれこそ知るはずもない。
会社名は分かるけれど、住所を調べたところで、高校生の私には、職場に押しかける勇気など、あるわけがなかった。
私は夜くんに事を何も知らない。
失って気づく事の多さに驚愕した。

夜くんに会わないといけないと思っていた。
何をされても良い。怒鳴ってやるつもだった。
文句の一つや二つ、言う権利はあると思った。
その頃の私は、夜くんを絶対に許さないと決めていた。

再会する術を無くした私には、虚無感だけが残った。
本当に何をしてでも会おうと思えば、家だって勤務先だって、すぐに調べられただろう。
だけどそれをしないのは、私がまだ子供だから。
その理由に納得したふりをして、逃げていたのかもしれない。

あんな事があったのに、こんなにもあっさりと彼が消えてしまうなんて思ってもいなかった。
あんなに愛していると言ったのに、もう会えなくなるなんて、思ってもいなかった。
こんな状況の中で、何も残さずに居なくなってしまった彼の事を、酷いとさえ思った。
愛しているといいながら、居なくなってしまえるなんて、「永遠が欲しい」と願った彼は、一体どこへ行ってしまったのだろう。

私はただ、信じたくなかった。
信じられるはずがない。

けれどそう思うのは、「あんな事」があったからこそだとも思う。
夜くんの愛し方の本当の意味を知らなければ、それは今までで通り窮屈で、重たいだけの物だったのではないか。
夜くんは私の事を愛しているという確信だけをただ持って、決して夜くんがm私から離れる事は無いと信じ、安心しきっていたからこその傲慢だ。

居なくなって気づく「大切さ」なんて、身勝手でしかない。