君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

歩きながら空を見上げていたけれど、ふと私は立ち止まった。
そこは、いつかの夏の夕暮れの、あの路地だった。

「夜くん…。」

ポツリと一人、呟いてみる。

「夜…くん…。」

何を期待していたんだろう。
何を待っていたんだろう。
夜くん、と呼べばいつだってすぐに応えてくれたあの優しい声は、もう聴こえてこない。

ねぇ、夜くん。夜くんってば。
私、泣いてるよ。
一人で泣いているんだよ。
苦しくて苦しくて…ねぇ、私が泣いていたら飛んでくるんでしょう?
いつだって私だけを守るんでしょう?
嘘つき…、嘘つき………。

死ななくったって輪廻して…、迎えに来てよ。

さっきまでとは違う涙が次々と溢れては、地面に落ちていった。
落ちた涙はすぐに見えなくなって、この暗い場所では私が泣いている事なんて、きっと誰にも気づけないから、安心して私は泣き続けた。
あんなに晴れやかな気分になったはずだったのに、悲しくてまだこんなに涙が出るなんて知らなかった。

いつか感じた恐怖を、けれどそんな事も忘れてしまえるくらいの愛を残して消えた彼を、私はこれからも探し続けてしまうのかな。

「一人にするなら………、その手で殺してよ。」

あんなに恐怖を味わったのに、一人になる怖さに比べたら、愛する人の手で、と一瞬でも思ってしまった自分が怖かった。