君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

美神さんの背中を見送りながら、私も歩き出す。
一人になると、途端に冷静さを取り戻した。
冷たい風が頬を掠めて、ふと見上げると、綺麗な満月の夜だった。
手を伸ばして、ギュッと掴む真似。開く、掴む、開く。
繰り返しても繰り返しても、当たり前に掌は空っぽのまま。

分かっているのに、時々こんな事をしてしまうんだ。
掴めるはずないのに。
分かっているのに…。

高い高い空の、遠い遠い月を見上げながら、途方も無いその距離に、掴めるはずの無い物に、繰り返し期待してしまう日々。
こんなにも空や月は遠いのに、夜くんよりは近くに在る気がして、胸が締め付けられる。