「はい。それっきりです。
あれからまだ二ヶ月経つかどうかなのに…。」

「随分時間が過ぎたみたい?」

「んー…、はい。そう…、ですね。時間だけが過ぎて、でも、まだ鮮明に憶えていて…。」

あの「事件」の次の日、白いままの私の首に、私は人間の生命力の強さを知った。
けれど、意外な事に、私は腕に薄く残る痕に、痕から気づいたのだ。
それはパパとママが旅行から帰ったあと、ママに何気無く「その痣、どうしたの?」と訊かれた事がきっかけだった。
私はすぐに原因が、夜くんに強く掴まれた時だと分かった。だけど、ママには言えなかった。
棚にぶつけたとか、適応に誤魔化しながらも、私の体は首よりも腕の方が弱いのだな、と変な事を思って、何だかそれがおかしくて笑った事を憶えている。

そんな腕の痣も、すっかり消えてしまっていた。
今の私の体に、彼の記憶は残っていない。
口にすら出さなければ、初めから夜くんの存在なんて何も無かったみたいに。

「彼の事、許せるの?」

その問いは、私がまだ、夜くんの事を吹っ切れていないと知っているからだろう。