とても真剣な表情で話す藤原さんに、それ程までに私を、そして夜くんの事を考えてくれていた事が嬉しかった。
けれど最後には、照れ笑いの様な笑顔を浮かべて、藤原さんは言った。

「…って、偉ぶってみてもさ、実は俺も、これが長年のテーマだったりするんだ。」

「長年」とえらく歳を重ねた風な事を言いながら、彼は一気にジンジャーエールを飲み干した。

「俺もね…、俺も上手く愛を伝えられないでいる。
愛なんて、言葉では語れないし、思っている事は山ほどあるのに、伝えられない事の方が多いんだ。『愛』を全て正しく伝えられる人なんて、きっといない。何が正解で、何が間違っているかなんて、誰にも決められる事じゃ無いからね。
俺の想いなんてさ、『愛』だなんて立派な物じゃないんだよ。
『恋』と言った方が正しいかもね。
だけど、誰かを大切に想う気持ちが、俺の中には確かに在る。その人を守りたいって強く思っている。
そういう気持ちは、いつか伝わるって信じているんだ。
その人が思うよりもずっと、俺はその人の事が好きだし、月城さんが思っていたよりもずっとずっと、彼は君の事が好きで堪らなかったんじゃないかな。
だから、大丈夫。『愛している』って気持ちを忘れないでいられたら、きっと、君と彼は大丈夫だよ。」

愛、と連呼する藤原さんの声が、優しく私の耳に届く。
頭の奥に張り付いていた闇が、スッと剥がれ、私はようやく夜くんの、大好きだった笑顔を思い出せた気がした。

暗くて黒い「夜」が、青空みたいに晴れ渡る様に、私はもう一度、夜くんを愛していけると思った。