君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

「でも良かった。君が無事で。」

無事、というのは語弊があるかもしれないけれど、と言いながら、藤原さんはジンジャーエールを一口飲んだ。

「自分の情けなさを痛感したよ。女の子一人も守れないなんて。
人を守る事が、こんなにも難しいって、知らなかった。」

藤原さんは悔しそうに言った。
私は、繰り返し私を守ると言っていた夜くんの事を思い出していた。
人を守る事は簡単では無い。
夜くんは私を、「ただ守りたいだけだ。」と言った。
どれ程の覚悟が、彼の中にあったのだろう。
今はもう、知る事は出来無い。

「藤原さんに、一切非は無いのに、そこまで追い詰めてしまって、本当にごめんなさい。」

思い詰めた様にうなだれていた藤原さんの表情にも、少しずつ色が戻っていく事を感じた。

「ありがとう。君が俺の事を気にかけてくれて嬉しいよ。」

謝る事も、ありがとうと言う事も、私の役目なのに、藤原さんは全て、自分の役目だと思っている。
こんな風に人を想って、人に優しく出来た事の無い私は、今までの自分が恥ずかしくなった。
人を愛するという事を、ちゃんと分かっていなかったのは、私の方だ。

私が自分の事よりも、他人をもっと大事に出来ていたら、夜くんの想いだって、もっと理解出来ていたかもしれないのに。