脱衣所で衣服を脱いで、バスルームに入った。
これから藤原さんと会う約束をしたのだ。
今日も私はバイトが休みだったから、「ちょうど良かった。ゆっくり休んでね。」と気遣いの言葉をくれる藤原さんに、会ってお詫びがしたいと、私が誘った。
そんな事は木にしてくれなくて良いと、藤原さんは言ってくれたけれど、気にしないで済む程、忘れられるわけがない。
ちゃんと会って話がしたいと言う私の願いを、藤原さんは聞き入れてくれた。
もう私とは関わりたくないと、はっきり言われる覚悟もあったから、ホッとした。
藤原さんへの用事はいつも、お詫びばっかりだなと思った。
こんなにグチャグチャの顔では会えないから、シャワーを浴びようと思った。
心の中まで洗い流せると、期待していたのかもしれない。

電話を切って確認した着信履歴には、夜くんからの着信は無くて、だけどどこか冷静に、あるわけないって思った。

バスルームの鏡に映る私はの裸は、どこも全部、白いままだった。
あんなに苦しい思いをしたのに、こんなに心が痛むのに、腕や足はもちろん、首までもが、白いままだった。

サスペンスドラマや小説の中で、首を絞められて人が簡単に死んでしまうのは、嘘だと思った。
だってあんなに苦しかったのに、私は生きている。痕すらも残っていないなんて。

だけど、死を覚悟したほんの一瞬前の感覚も、私の体ははっきりと憶えていた。
スッと頭の中が真っ白になる。何も見えなくなって、何も聴こえなくなる。
たった一瞬だけ、恐怖から解放される、ほんの一瞬。
その瞬間は、思い出す今の方が、ずっとずっと怖かった。

体が震えて、慌てて私はシャワーを浴びた。
何もかも綺麗になって、私が忘れる事が出来たなら、夜くんはここに、戻ってこれるのかもしれないと思った。