夜くんの中に在ったはずの「正常」と、今はもう隠しきれなくなってしまった「異常」が複雑に絡み合い、彼を支配する。
全ては私の為だけに存在しているのに、その私は苦しくてしょうがないのだ。

どこにもいかないで、離れないでとすがったのは私だったのに、歪んだ愛の形に恐怖し、距離を保つ。
その私の身勝手こそが、彼を混乱させているのだった。

電気も点けないままの暗闇の中で、私と夜くんだけが、黒く浮かび上がっているみたいだった。
開け放したままのカーテンの向こうに浮かぶ三日月が、まるで笑っているかの様に、ぽっかりと漂っている。

黒い空と、やけに白い三日月を眺めながら、思った。
引き返すチャンスは、失われたのだ、と。

少しずつ少しずつ、私と夜くんが壊れる音が、聴こえもしないのに真後ろまで迫っているみたいに、空気が重い。

密室の中で、一つの影が、がゆらりと揺れる。