「輪廻…。」

囁く彼は、とても悲しい顔をしていた。

「酷いのは君だ。
どうしてさっきからずっと、あの男を庇う?
俺は君の事を守りたかっただけだ。君の為なら何だってするよ。」

「それが勘違いだって言っているんです。あなたが守りたかったのは、傷ついたあなたの心だけよ。
私はあんな事、一つも望んでなんかいない!
私が夜くんの気持ちを考えないで、藤原さんに贈り物をした事は反省しています。
でも………、あなたの愛情はあまりにも窮屈です…!」

凍りつきそうだった空気が、いとも簡単に壊れた事が分かった。
私が今彼にぶつけた本音などあり得ない、と言いたげな表情で、空気の代わりに夜くんが固まっている。
とても静かだった。静寂さえ耳障りになりそうな程、静かさが息苦しかった。
しばらく何も言わず、ジッと私の目を見つめていた夜くんが、薄く笑った。
藤原さんに向けた、嫌な笑い方とは違う、綺麗な笑い方だった。

「そうか…、輪廻。あぁ…、ようやく分かったよ。
そんな風に酷い事を言って、俺を試しているんだね。
馬鹿だなぁ。そんな事しなくても、俺の愛の深さは変わらないっていうのに。
どんなに君がイケナイ子でも、俺が君を嫌いになった事なんてあるかい?
例え輪廻がどれだけ俺を拒絶したふりをして見せても、俺は君を愛し続けるし、傍に居る。
あぁ…、本当に可愛い子だね。
君は何も心配しないで、ただ俺に守られていれば良いよ。」

彼の言葉は、ただ驚愕だった。
何を言っても、何をしても伝わらない。
私が彼に向けて発信する事の全てが、愛だと信じて疑わない。
拒絶を見せる私を、本当の私だと信じたくないのでは無い。
そんな私は「存在しない」のだ。