君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

藤原さんの首筋にめり込んだままの、夜くんの爪の先に赤い線が出来た。
じわりと滲む、その赤い線は、ぷつりぷつりと生まれてくる。
ゾクリと背中を這うような、赤い赤い線…。

「いい加減に…し…。」

藤原さんが言いかける。
しかしそれよりも先に、私の躰体中に蓄積された恐怖が暴走を始めた。
これ以上この恐怖を抑え込む術を、私は持っていなかった。

「ゃ…、やめて…っ!!!!!!」

叫ぶ様に上げた私の声に、夜くんはぴたりと動きを止めた。
そして、今までの目の前の彼とは別人の様な、優しい声で言った。

「どうしたの。大丈夫だよ。すぐに終わるからね。」

藤原さんの首筋から離れた夜くんの指は、滑る様に、滑らかに、私の髪の毛にそっと触れた。

ビクン、と肩が震えるのが分かった。
夜くんの一つ一つの動きが、私を縛り付ける鎖の様に、体中に巻きついているみたいだった。