君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

「お前は、俺の行動や言葉こそが罪だと言いたいんだな？
だとしたらお前は本当に可哀想な奴だよ。俺のこの気持ちに理解が及ばないのは、それ程までに誰かを愛した経験が無いからだ。
この引き裂かれる様な想いすらも理解出来ないのだろうね。
俺以外の手が輪廻に触れる。俺以外の声が輪廻の耳に届く。俺以外に名前を呼ばれて輪廻が振り向く。俺以外に微笑むりんね。
そんな事はあってはならない。許されない事なんだよ。」

異常が異常を引き寄せる。異常な物は異常しか生み出さない。

「そしてお前…、お前の様な害虫は、今この瞬間に死ぬべきだよ。」

金縛りにかかってしまったみたいな体で、夜くんの声だけが耳の深い所まで届き、脳内で響いているみたいだった。
何か言わなきゃ、ここから動かなきゃと、脳はしきりに命令しているのに、体が言う事を聞かない。

「彼女の美しい名前を呼び、美しい存在に触れる事を許されたのは、この俺だけなんだよ。
輪廻、輪廻、輪廻輪廻輪廻…。俺の命は全て、彼女の為だけに在るんだ。
輪廻に触れ、輪廻とほとんど同じ酸素を体中に吸い込んで生きてしまっている害虫には、それなりの罪を償ってもらわないと………、ねぇ？」

ツー………ッと、夜くんの長い指が、藤原さんの首を這い、喉仏をなぞる。
藤原さんは意味が分からないという顔で、もう隠すつもりもないらしい「嫌悪」を顔に貼り付かせたまま、異常に対する条件反射で一歩後退する。