夜くんの声が、私の体中を這いずり回る。…限界だった。
ジッと足を踏ん張るのも限界で、飲み込むには多すぎる感情を、もう隠しきれない程に、震えが体中を包み込もうとしていた。
「どうしてそういう言い方をするんですか!藤原さんは、ただ危ないからって送ってくれただけじゃないですか!それとも他の男の人と歩くくらいなら、私が危険な目に遭った方がマシでしたか!?」
「どうしてその男を庇う?
君が危険な目に遭えば良いなんて思っているわけないだろう?どこかに出掛けていたのなら、俺に連絡してくれれば良い。どこにだって迎えに行くよ。
でもね、輪廻。君は今日、バイトは休みのはずだ。なのにその男と居るという事は、『そいつと二人で出掛けた』、『そいつに会いに、わざわざバイト先に行った』。
どっちなの?何の為に?ねぇ、輪廻…。その紙袋の中身を教えてよ…?」
取り乱す私とは対照的に、ひどく落ち着いた夜くんの声が、堪らなく恐ろしかった。
歯がガチガチ鳴る。上手く舌が回らない。
「ドーナツを…、ドーナツを藤原さんに…。色々なお詫びとかお礼とかに…作って…。」
ずっと俯いていた顔を上げる。夜くんと視線がかち合って、ようやく私は、しまった、と思った。
恐怖や怒りで興奮すると、人は判断が鈍くなる。考える暇もなく、口走る。
目の前には、苦しそうに、だけどどこか楽しそうに口端を歪ませる夜くんがいた。
「ふぅん…、そっかぁ。この男の為にドーナツを手作りした。それを渡しに出勤日でもないのに、わざわざバイト先にまで行った。
輪廻は恥ずかしがり屋だから、きっとその場では渡す事が出来なかったのだろう。そうこうしているうちに、この男が家まで送ると言い出した、ってところかな?
ここまで来たら、もうここで渡すしか無いからね。せっかく輪廻が一生懸命作ったドーナツだ。渡しそびれて捨てるわけにはいかない。
でもね、許される事じゃあ無いなぁ…。理由なんか関係ない。輪廻は自分が生み出した物を俺じゃない、他の男に与える事を選んだんだ。罪深いね…。」
ただお詫びがしたかっただけなのに。
元はと言えば、昨日夜くんが店にさえ来なければ、こんなに嫉妬深く無ければ…、私がさっさとドーナツを渡して、一人で帰宅していれば…、ドーナツなんて作らなければ…。
次から次へと溢れ返る後悔を、どこにもぶつけられないまま、私は夜くんに聞く事しか出来ない。
「何で…、そんなに怒るの。気に入らないなら全部謝るから…、そんな風に…。」
「愛しているからだよ。」
私の声を遮って言った夜くんの声がとても冷たく、悲しそうに響いて、私はハッとした。
「愛しているからだよ。
愛しているから、堪えられない。不安になる。怖くなるんだ。
一度愛してしまえば、もう引き戻せなくなる。
全部、全部、全部全部ぜんぶぜんぶ、全部!愛しているから。
たった半日会えないだけで不安になる。
数時間…数分…一秒だって君を一人にはしたくない。
君が酷い目に遭っていないか、一人で泣いているんじゃないか。
あぁ、早く帰ってきて良かった。こんなクズに捕まっていたなんて…ねぇ…?」
ジッと足を踏ん張るのも限界で、飲み込むには多すぎる感情を、もう隠しきれない程に、震えが体中を包み込もうとしていた。
「どうしてそういう言い方をするんですか!藤原さんは、ただ危ないからって送ってくれただけじゃないですか!それとも他の男の人と歩くくらいなら、私が危険な目に遭った方がマシでしたか!?」
「どうしてその男を庇う?
君が危険な目に遭えば良いなんて思っているわけないだろう?どこかに出掛けていたのなら、俺に連絡してくれれば良い。どこにだって迎えに行くよ。
でもね、輪廻。君は今日、バイトは休みのはずだ。なのにその男と居るという事は、『そいつと二人で出掛けた』、『そいつに会いに、わざわざバイト先に行った』。
どっちなの?何の為に?ねぇ、輪廻…。その紙袋の中身を教えてよ…?」
取り乱す私とは対照的に、ひどく落ち着いた夜くんの声が、堪らなく恐ろしかった。
歯がガチガチ鳴る。上手く舌が回らない。
「ドーナツを…、ドーナツを藤原さんに…。色々なお詫びとかお礼とかに…作って…。」
ずっと俯いていた顔を上げる。夜くんと視線がかち合って、ようやく私は、しまった、と思った。
恐怖や怒りで興奮すると、人は判断が鈍くなる。考える暇もなく、口走る。
目の前には、苦しそうに、だけどどこか楽しそうに口端を歪ませる夜くんがいた。
「ふぅん…、そっかぁ。この男の為にドーナツを手作りした。それを渡しに出勤日でもないのに、わざわざバイト先にまで行った。
輪廻は恥ずかしがり屋だから、きっとその場では渡す事が出来なかったのだろう。そうこうしているうちに、この男が家まで送ると言い出した、ってところかな?
ここまで来たら、もうここで渡すしか無いからね。せっかく輪廻が一生懸命作ったドーナツだ。渡しそびれて捨てるわけにはいかない。
でもね、許される事じゃあ無いなぁ…。理由なんか関係ない。輪廻は自分が生み出した物を俺じゃない、他の男に与える事を選んだんだ。罪深いね…。」
ただお詫びがしたかっただけなのに。
元はと言えば、昨日夜くんが店にさえ来なければ、こんなに嫉妬深く無ければ…、私がさっさとドーナツを渡して、一人で帰宅していれば…、ドーナツなんて作らなければ…。
次から次へと溢れ返る後悔を、どこにもぶつけられないまま、私は夜くんに聞く事しか出来ない。
「何で…、そんなに怒るの。気に入らないなら全部謝るから…、そんな風に…。」
「愛しているからだよ。」
私の声を遮って言った夜くんの声がとても冷たく、悲しそうに響いて、私はハッとした。
「愛しているからだよ。
愛しているから、堪えられない。不安になる。怖くなるんだ。
一度愛してしまえば、もう引き戻せなくなる。
全部、全部、全部全部ぜんぶぜんぶ、全部!愛しているから。
たった半日会えないだけで不安になる。
数時間…数分…一秒だって君を一人にはしたくない。
君が酷い目に遭っていないか、一人で泣いているんじゃないか。
あぁ、早く帰ってきて良かった。こんなクズに捕まっていたなんて…ねぇ…?」



