君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

空気さえも壊れない様にと注意していた事も虚しく、静寂を破ったのは、夜くんの声だった。

藤原さんの方へと一歩を踏み出した夜くんは、ゆっくりと滑らかに腕を伸ばし、人差し指を突き出した。
その動きがあまりにも滑らかだったから、こんな状況でなければ、その動きに「綺麗」と、私は感動すらしたのかもしれない。

「それ、輪廻のでしょう?」

静かに、けれどはっきりと夜くんは言って、真っ直ぐに藤原さんを見据えている。

「はい…?」

「それだよ。その紙袋。輪廻のだよね?何でお前が持っているんだ。」

怒りなど感じられない様な、静かな声。
その静かさこそが、私には恐怖でしかない。

「夜くん…、あんな紙袋くらいどこにでも売ってるんだよ。たまたまだよ…。」

「一昨日。君の家の台所の戸棚で見たよ。一緒にご飯を作った時。
どうして嘘をつくの?輪廻…、君は本当にイケナイ子だね…っ!」」

私の腕を握っている彼の掌にグッと力が入る。
痛い、と思った。喉がカラカラだった。
吐いてしまいたい衝動をグッと抑え込む。

「ねぇ、俺に隠し事が出来るなんて思わない方が良いよ?
そもそも隠し事がしたいなんて、やましい事があるって事でしょう?傷つくなぁ…。
俺はこんなにも毎日輪廻の事だけを考えて、輪廻の為だけに生きているのに。
君は平気でこんなクズを相手にしているんだ。許せないよね?
………害虫は早く始末しなきゃね…。」