何かを言いたいのに、何も言えない藤原さんに、ハッとして私は言った。
「ふじっ…、藤原さん!お願いです、今のうちに逃げて…っ!」
夜くんがここに来てしまう前に、藤原さんをここから遠ざける必要がある。
ここにいては駄目だ。今の夜くんは何をするか分からない。
全ては私の為に。私を守る為なら、夜のくんは全てを捨ててしまえるだろう。
「逃げるってどうして。確かに彼は酷く怒っている様に見えたけど…。」
「本当だね。どこに逃がすつもりかな?どうしてこの男を逃がしたいのかな?」
藤原さんの声を遮って聞こえた声に、背筋がゾッと震えた。
静かに開いた玄関のドアの影に、ハッと気づいた時には彼が立っていた。
「さぁ、輪廻。こっちにおいで。君の傍にはいつだって俺が居る。だからもう大丈夫だよ。ほら、早く俺の隣に。それから説明してくれるかい?
どうしてこの男に『逃げろ』と言ったのかを…。」
私の隣に自分以外の男の人が立っているというだけで、夜くんにとっては事件になり得る。
何か酷い事をされたのではないか、泣いているのではないか、私の…、気持ちが移っているのではないか…。
彼が抱く疑心暗鬼は、彼にとっての恐怖であり、それはそのまま私にとっての恐怖へと直結する。
説明などしようが無い。
「私の彼氏があなたに危害を加えようとしています。だから早く逃げてください。」と言いたかった、とでも言えというのか。
「あ…あの、誤解だよ。わた…っ、私…、嫌な事なんてされてないっ!
せっ、藤原さんは危ないからって送ってくれて…。」
夜くんが聞きたい事は、こういう事では無いと分かっていたけれど、少しでも藤原さんに危害を加えられない為には、こういう事しか言えなかった。
案の定、夜くんは全然納得していない。
「へぇ。最近のクズは随分と紳士の真似事をする様になったんだねぇ…。残念だなぁ。どれだけ形を繕っても、お前がゴミクズである事は変えられないのに…。」
藤原さんは隠す素振りも見せずに、はっきりと眉間に皺を寄せる。
当然だろう。どうしてこんなにも酷い言われ方をされなければいけないのか。
けれど、藤原さんが不快感を露呈すればする程、夜くんは楽しそうに笑った。
何が起こるか分からない中で、目だけをキョロキョロと忙しなく動かす事が精一杯だった。
指一本でも動かしてしまえば、空気さえ壊れてしまう様な気がした。
夜くんは私の隣に立って、私の腕を強く掴んでいる。
その腕にジットリと汗が滲むのが分かる。
空に浮かぶ月さえも、ただの傍観者と成り果てて、私達を見下ろしている。
そこには視線なんて無いのに、刺さる様な感覚が恐ろしかった。
「ふじっ…、藤原さん!お願いです、今のうちに逃げて…っ!」
夜くんがここに来てしまう前に、藤原さんをここから遠ざける必要がある。
ここにいては駄目だ。今の夜くんは何をするか分からない。
全ては私の為に。私を守る為なら、夜のくんは全てを捨ててしまえるだろう。
「逃げるってどうして。確かに彼は酷く怒っている様に見えたけど…。」
「本当だね。どこに逃がすつもりかな?どうしてこの男を逃がしたいのかな?」
藤原さんの声を遮って聞こえた声に、背筋がゾッと震えた。
静かに開いた玄関のドアの影に、ハッと気づいた時には彼が立っていた。
「さぁ、輪廻。こっちにおいで。君の傍にはいつだって俺が居る。だからもう大丈夫だよ。ほら、早く俺の隣に。それから説明してくれるかい?
どうしてこの男に『逃げろ』と言ったのかを…。」
私の隣に自分以外の男の人が立っているというだけで、夜くんにとっては事件になり得る。
何か酷い事をされたのではないか、泣いているのではないか、私の…、気持ちが移っているのではないか…。
彼が抱く疑心暗鬼は、彼にとっての恐怖であり、それはそのまま私にとっての恐怖へと直結する。
説明などしようが無い。
「私の彼氏があなたに危害を加えようとしています。だから早く逃げてください。」と言いたかった、とでも言えというのか。
「あ…あの、誤解だよ。わた…っ、私…、嫌な事なんてされてないっ!
せっ、藤原さんは危ないからって送ってくれて…。」
夜くんが聞きたい事は、こういう事では無いと分かっていたけれど、少しでも藤原さんに危害を加えられない為には、こういう事しか言えなかった。
案の定、夜くんは全然納得していない。
「へぇ。最近のクズは随分と紳士の真似事をする様になったんだねぇ…。残念だなぁ。どれだけ形を繕っても、お前がゴミクズである事は変えられないのに…。」
藤原さんは隠す素振りも見せずに、はっきりと眉間に皺を寄せる。
当然だろう。どうしてこんなにも酷い言われ方をされなければいけないのか。
けれど、藤原さんが不快感を露呈すればする程、夜くんは楽しそうに笑った。
何が起こるか分からない中で、目だけをキョロキョロと忙しなく動かす事が精一杯だった。
指一本でも動かしてしまえば、空気さえ壊れてしまう様な気がした。
夜くんは私の隣に立って、私の腕を強く掴んでいる。
その腕にジットリと汗が滲むのが分かる。
空に浮かぶ月さえも、ただの傍観者と成り果てて、私達を見下ろしている。
そこには視線なんて無いのに、刺さる様な感覚が恐ろしかった。



