君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

「お帰り、輪廻。それ、だぁれ?」

私と藤原さんが立つ場所よりも、上の方。
降ってきた声に、一瞬にして空気が凍りつくのを感じた。

何?誰?お帰り?どこ?
混乱を始める頭の中に、次々と疑問が浮かんでは消えて、だけど頭の隅の方では、冷静な自分にもいた。

輪廻、と私を呼ぶ、よく聞きなれた声。
ゆっくりと見上げれば、そこには私の愛しい人。………愛しい、人?あれは、愛しい人だろうか?

家の二階にある私の部屋は、路地に面している。
その部屋の窓から見下ろせば、ちょうど玄関の入り口が丸見えだ。
そこに呆然と突っ立っている私と藤原さんを、夜くんはさも愉快そうに眺めていた。

夜くんは、私の愛しい人だ。愛しい人、だった。
今は私の中には恐怖しかなく、暗闇でよく見えないはずなのに、悪意たっぷりに微笑む彼の表情が、はっきりと分かる様だった。

触れてもいないのに、彼が私の心臓をキュッと掴んでいるみたいな感覚がして、呼吸が上手く出来ない。
恐怖を予感させる彼の声は甘く、舐める様にゆっくりと私を捕まえようとしている。