お菓子作りなんて、本当に久しぶりだった。
小学生の頃に、仲の良い女子数人で作ったっきりで、それ以降はお菓子なんて作った事が無い。
ママはお菓子を作る事が好きで、クッキーやシフォンケーキなんかを作っては、ご近所に配ったりしている。
パパにだって、バレンタインの日には毎年手作りのお菓子をあげている。
その女子力は、娘の私には遺伝しなかったらしい。

「簡単に作れるドーナツ特集」のはずが、少々手こずりながらも、なんとか完成した。

戸棚にしまってあった、ママが使っているラッピング用の袋やリボンなんかを使って、どうにかプレゼントらしい形には出来た。

全てが完成して、目の前に置き、眺める。
彼女でもないし、ましてやバレンタインデーでもないのに、手作りのお菓子なんて引かれるだろうか?
途端に不安になったものの、作ってしまったものはしょうがない。

それにこうして完成した物を眺めていると、やっぱり嬉しくなってきて、早く渡したいと思った。

窓の外はいつの間にか陽が落ち始めていた。
ドーナツを作り始めた時には、まだ太陽が高く昇り、蝉もあんなにうるさかったのに、こんな時間まで苦戦していたのかと思うと少し情けなかったけれど、これくらい陽が落ちていれば、そんなに暑くもないだろうし、夜くんが帰宅するまでにまだ時間があるから、今からバイト先に持って行こうと決めた。

言い訳は何でも良い。忘れ物を取りに行くついでに、昨日のお詫びで作ったとか、とにかく藤原さんの気が重くならないように、あれこれと言い訳を考えながら、私は外に出る支度を始めた。