ウキウキしながら戸棚を開けて、ウキウキしながら材料チェック。

ウキウキした気持ちは一気に撃沈した。

小麦粉が袋の3分の1より少し多いくらいしか無い。
卵も少しと、牛乳も少量しか無かった。
この材料では、頑張っても一人分しか作れそうになかった。
買いに行こうかとも思ったけれど、未だ大合唱を続ける蝉の声を聴いていると、外に出る勇気は一瞬で失われてしまった。

ここはもう、しょうがないと思うしかない。
先輩へのお詫びが優先、失礼を詫びるのが常識だと思った。

心の中で夜くんに謝った。
藤原さんにだけ手作りのドーナツをあげた事がバレれば、大変な事になりそうだけれど、バレなければ大丈夫。
バレたとしても、理由がちゃんとあるんだし。
浮気をするわけじゃない。
夜くんだって、それくらいは理解してくれるだろう。