夜くんは朝早くに会社に行って、私は昼前にようやく布団から起き出して、珍しく夏休みの宿題に取り組んでいた。
自分の部屋よりもリビングの冷房の方がよく効くから、部屋から必要な物を全て持ち込んでいる。

冷気を逃さないように窓を閉め切っていても、蝉の声がうるさい。
一切失われずにいる活力フル動員で、主張を続けていた。
蝉達の合唱を聴けば聴く程に、室内の温度も増している気がしてくる。
正直に言うと、私はもう課題どころでは無くなっていた。
自分の粘り弱さに溜息が出る。

少しだけ息抜きにと、パラパラ雑誌を捲っていると、あるページが目についた。

「家庭で簡単に作れるドーナツ特集。」

可愛らしくデコレートされたドーナツ達は、見ているだけでその生地の食感が思い出され、空腹を誘う。
材料、手順を見ていると確かに簡単に作れそうだと、思いながら、良い事を思い付いた。

昨日のバイト中、迷惑をかけてしまった藤原さんに、お詫びに作ってみようかなと思った。
そしたら当然、夜くんにも作る事になる。
もしも数が出来すぎたら、バイト仲間にあげるのも良い。

まだ作ってもいないし、材料だってあるか分からないのに、渡した時の勝手な妄想でウキウキしてきた。

そのウキウキとした気持ちのまま、台所へと向かう。
善は急げだと思った。