「夏ってさ…。」

彼が呟く。

「刹那で儚くて、気付けば手の届かない所へ行ってしまうんだ。
あんなにキラキラしていたのに、こんなに現実としてここにあるのに。
まるで夢みたいだね。
可笑しな魔法をかけられたみたいだ。
君とおんなじだよ。
こんなにも君を想っても、たまに分らなくなるんだ。
君は今何を望む?
君の為なら何だってしたいのに。
何も…何一つ伝わらないんじゃないかって…。
君を傷付けたいわけじゃない。君が望むなら、何だってしたい。
それなのに、君が本当に望む物が分からなくなる。」

彼は気付いていた。愛を持て余す私に。

与えられるばかりで、それも抱えきれない程の大きさで、いっそ手離してしまえればどんなに楽かとさえ考える自分がいた。
強く愛される事は幸せな事だと思う。だけどその形によっては、混乱さえしてしまうのだ。
彼が私に触れるだけで、その触れる指にゾクリと反応を示し、それに彼が気づいてしまったら、全てを壊してしまう事にも、自分の気持ちにも恐怖を感じ、涙がこぼれた。

「輪廻、泣かないで。
俺は絶対にどこにも行かない。君だけをこんなにも愛している。信じて欲しい。」

夜くんはただただ切なそうに、私の頭を撫でた。