君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

目覚めると、超至近距離に夜くんの笑顔があった。
おでこをくっつけて、私の髪の毛を愛でている。

「…おはようございます。」

「おはよう。寝起きも素敵だね。」

「こんな醜態をイケメンに晒すくらいなら死んでしまいたいです。」

「君が死んでしまう前にその手で俺を殺してね。
君無しでは生きていけない。」

「ごめんなさい我慢します。醜態を晒した方がマシです。」

「輪廻。約束して。
俺を愛しているなら、君が居ない世界に俺を置いて行かないで。」

「夜くん…。愛していますよ。本当に。
だけど、愛している人を手にかける事なんて出来ません。
私の存在が夜くんにそこまで思わせてしまうのなら、あなたから離れた方がどんなに良いか…。」

寝起きからこんな会話。
彼は本当に四六時中こんな事を思いながら生きているのか。

「…君は酷い子だね。
『愛している』と言ったその舌の根も乾き切らないそばから『離れる』なんて事を言う。
君さえ居れば何を捨ててもいい。
君さえ守れるのなら何を犯してもいい。
月城 輪廻。俺が見上げるお城にはね、いつもいつも綺麗な月が浮かんでるんだ。
俺という暗い夜に浮かぶ、唯一の希望。唯一の生命。
輪廻、もしも俺が死んでしまって君が泣くのなら、何度、輪廻転生しても必ず君を見つけるよ。
君は素敵だ。
君の名を持って、体中で、こんなにも俺を…。」

これがプロポーズなら、迷わずイエスと応えるだろう。
彼の愛を覗いてみても深過ぎて底は見えない。
こんなにも私を欲しているのに、私自身が応えられずにいる。

彼と私の愛の形は違うのだ。
共に歩む死こそが永遠だと信じて止まない彼と、共に歩む半永久的な未来を望む私。

そのすれ違いが重なり合う事は無いのだろう。

愛しているという想いの強さが同じであっても、形が違うのなら、せめてこの瞬間、この世でだけは、と彼を抱き締める事しか成す術が無かった。