君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

「蓮根、やっぱり食べたかった?」

「蓮根、ですか?あればいいなぁとは思うけど、でも無くてもこれだけで十分、満足だよ?」

夜くんは私の言葉に少し哀しそうに笑い、呟いた。

「ごめんね。俺が蓮根じゃなくて。」

…再びクエスチョンマークの嵐だ。

「俺はね、どうして人間なんかで産まれ堕ちてしまったんだろうって君に出逢ってからずっと、悔しくて堪らない。
俺は君に食してはもらえないんだ。
俺だって君の血肉になりたいのに。
それが愛じゃないのなら、ねぇ、何だって言うんだ?
もしもこの世に食い物が無くなれば君は俺を食べざるを得ないよ。
俺は君の体中で生き続ける。
俺を食さないのなら、君は唯一の食材を失ってしまうね。
俺のせいで、死んじゃえばいい。それも素敵だけど…それこそ、そんなのは愛なんかじゃない。
俺は君を愛している。
君が生きているこの世界を愛している。
それなら君は、迷わず俺を食べるべきなんだよ。」

彼が言う事は少し難しくて、というか普通の会話じゃない様な気もして、ちょっと頭を悩ませたけれど、いくつもいくつも出てくる言葉には一貫して、「私の事が好き」って、それだけが含まれている気がした。

そしてなんだかおかしくて、私は笑った。

「私に食べられたら消化しちゃいますよ?」

夜くんはハッとした表情で、だけどすぐに俯いて小さく呟いた。

「大丈夫。消化される前に輪廻の骨になってカルシウムになるから…。」