君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

いただきます、と二人で同時に言って、私はごぼうをつまみ、口に運んだ。

「待って。」

急にストップがかかりピタリと動きが止まる。

「無理しちゃいけないよ。正直に言ってごらん?
意地をはるのは、俺は好きじゃないからね。」

これが漫画なら今頭の上はクエスチョンマークでいっぱいだろう。

「何の事です?」

「素直じゃないね。
食べさせて欲しいんだろう?」

「いえ。箸の使い方は幼少の頃に学びました。一人で食べられます。」

パクッとそのままごぼうを口に含んだ。
続けて鶏肉も頬張る。

「夜くん!すごく美味しいよ。味がよく染みてる。」

パクパクと食べる私を彼は少し残念そうな顔で見つめている。

「そう、良かった。」

どんどん箸を進める私に反して彼は未だに一口も食べていない。

「どうしたの?」

「君の嬉しそうな顔を見てるだけで満足なんだよ。」

綺麗に笑った彼のお腹がグゥと音をたてた。

「ちょ…お腹空いてるじゃないですかっ。」

笑いを堪えるのに必死だ。

「チッ…窓から虫が入ってきたんだ。羽音だよ。」

どんな羽音だよ、とツッコみたいけれど、強がる彼が可愛い。
意地を張らなくて良いのに、それでも格好つけたいんだろうと、そっとしておく事にした。