君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

夢をみた。

真夏の蒸し風呂の様な箱の中で、小さな穴から生温い風が吹きつける。
眉間を寄せる、美しい人。
夜の様に黒い髪の毛が、風に揺れる。

美しい人は言った。

「こんな日は、君はちっとも抱き締めさせてくれない。
凍死しても良い。南極に二人で暮らそう。」

冗談みたいな本気を、真剣に語る、その顔も美しい。
その手には、大きく膨らんだ袋が握られている。
あの夏の日の夜に、私が持っていた、紙袋だ。

「それ、なぁに?」

問う私に、美しい人は、にこりと微笑んだ。
今までに見た、どんな表情よりも、美しいと思った。

「アイスキャンディー。ソーダ味だよ。」

彼は嬉しそうに、紙袋の口を、広げて見せてくれた。
中身は全部、溶けてしまっている。
俯く私を、彼は抱き締める。

「また買ってあげるからね。何本でも。
だからそんな顔しないで。」

違うよ。嬉しいって喜ぶ私を、あなたに見せてあげられなかったから。
そう言いたくて、言えない私。

「不甲斐ない俺を嫌いにならないで。
君に嫌われたら、俺は、もう…。」

彼の右手には、光るナイフが握られている。

紙袋から、少しずつ、ブルーが流れ出していく。
溶けたブルーの水溜まりに二人の影は揺れる。