君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。

再び私は洗面台へと向かい、今度こそ歯を磨き始めた。
ポストを開ける勇気は、何故か無かった。
ゆっくりと歯を磨いて、それから順番に顔を洗う。
結局ダッカールを取っていなくて、髪の毛が濡れてしまったけれど、今は気にならなかった。

そのままリビングへ向かった。
私は台所でティーポットとカップを用意して、アップルティーを淹れる準備をした。
出掛ける事よりも、今は落ち着こうと思った。
リビングのテーブルの上に置いてあるダッカールを見つけて、ママが置いてくれたのだな、と思った。
そこでようやく髪の毛をまとめる事が出来て、少しスッキリした。

リビングのカーテンを全開にして、秋の暖かい陽射しを部屋全体に取り込んだ。
陽射しに眉間を寄せる人は、もう居ない。

シュンシュン、とヤカンが湯気を吐き出して、お湯が沸いた事を教えてくれる。
ティーポットにゆっくりとお湯を注いで、お盆に乗せたカップと一緒に、リビングのテーブルの方へ移動して、ソファに腰をおろすと、自然と溜息が出た。

無意識に用意した二対のカップ。
駄目な癖だな、と自重気味に声を出して笑った。