触れないキス

きっぱりと突き放されて、息さえ出来なくなる私をあざ笑うように、そらは口元にだけうっすら笑みを作る。

冷たく感情がこもっていないようなその笑みは、ぞくりとするほど怖くて、美麗だ。


「……あぁ、そのカラダがあったか。慰めだと思って、俺に抱かせてくれる?」


かぁっと顔が熱くなる。

こんなこと言うなんて、いつものそらじゃないよ……!


「何で、そんなこと……っ! 私はただ」

「冗談に決まってるだろ。だって」


一段と低いそらの声が私の言葉を遮り、夜の空気を震わせる。


「俺は……あんたのこと、何とも想ってないから」


そらの口元から、笑みが消えた。


「もう俺に関わるな」

「っ……!」


瞳にじわりと熱いものが込み上げる。

別にそらが私に気があるんじゃないかとか、何か期待してたわけじゃない。

でも、きっぱりと拒絶されたことが悲しくて、やるせなくて。

私の中で、何かがガラガラと音を立てて崩れるような感覚がした。



「……家は?」


若干の沈黙の後、少しだけ、ほんの少しだけ声が柔らかくなった気がして、私はゆっくり顔を上げる。

いつの間にか、もう家のすぐそばまで来ていたらしい。