それからまた考え込んで、意を決してあのことを口にした。

「…泉ってお前の女?」


「はっ?何で泉のこと知ってんの?」


眉間に皺を寄せながら、伊織が言う。

そりゃそうだ。
俺達、レンタル彼氏はプライベートなことを話さない。


あの、聖でさえも。

「……昨日、キー置きに来たら泉ってずっと呟いてっから」


伊織は明らかに動揺しながら、俺の問いに答えた。


「ま、まさかー、間違いだわ間違い」


「それならいーけど…お前泣いてたぞ」


「え?」


その一言で伊織の顔が硬直する。

「それだけ言いたかったから、それじゃあ」



“会いたい”

そう、泣きながら呟いてたことはどうしても言えなかった。



……何故か、言ってはいけない気がしたから。


俺が扉を閉める時、後ろをちらっと見たが伊織は固まったまま、立ち尽くしていた。




……………大事な、女なんだな。


きっと。

彼女ではないのかもしれない。