「千里、またね」


「ああ、また」


客の愛に上辺だけの笑顔を見せて、見送った。
愛の車が見えなくなるまで、寮の前で立ち続けた。

「………疲れたな」

ぼそっと呟くと、俺は踵を返した。
寮の入り口に向かった時、その姿を見てぎょっとした。

「い、伊織…?」

近寄ると、伊織がフロントで大の字で寝転んでいた。

「………びっしょりじゃん」


今は晴れてるけど、さっき夕立ち来てたからな。
それで濡れたのか。

とにかく、こんなとこで寝たら風邪引くぞ。

「…おい、伊織、伊織」



何度か呼ぶが、うんともすんとも言わない。
死んでんじゃねえか?と思うぐらいぴくりともしない。

「…おい、伊織、風邪引くぞ」

強く揺さ振ると。

「うぅん…。
……………いず、み」




…………泉?



客か?
よく、わからねえけどしゃあねえ。
連れてくか。


肩に背負うと、俺はエレベーターのボタンを押した。

……軽いな。