千尋くん、千尋くん







しばしの沈黙。



だけどすぐにざわつく周り。




聞こえてくるのは、「宇治橋くんが走るの?」とか「キャーッ」とかと言う、女子の色めきだった声がほとんど。





それが、やっぱり千尋くんは人気者だということを知らせてくれる。





「なんでオレなんですか」




「一之瀬くんがなんか前に宇治橋くんに助けてもらったとか? バイトがなんちゃらかんちゃら……」





うーんと首をひねりながらそう言う先生。




きっと、前に銭湯掃除のバイトにスケットで行ったときのことだろう。





「だから、そのお礼に目立つチャンスをあげよう! って」




「あの野郎……」







眉をひそめた千尋くんがぼそりと呟く。