「いや、…小刀があってよかった」 緩んだ右手をぎゅっと握る。 昨日自分でつけた傷は深く、死ぬほど痛かったけれど、これくらいじゃ死ねないんだと無意味に実感した。 同時に、夢が醒めたように思考回路が清々しく。 有り難うと言って返せばいらないと首を横に振る。 「やる」 「はあ、でも高いんじゃねコレ」 「そうなのか? 適当にくすねたからわかんないわ」 万引きしたよこの男。