哀しいことに、学のない馬鹿でも世間に生きていれば『何故』という疑問は浮かんでくるもので。


解明の意志がないその疑問は実に他愛もないことなのに、緋次にはそれが切実過ぎて捨てきれなかった。


けれど、それを解明しようとすることがどれだけの傲慢か解るか。


紀元前より何万人もの哲学者がそれを研究してきたのに、お前にそれが解明できるのか、と、男は問う。




「ほら、突き詰めれば詰めるほど下らない話じゃないか」



アホらし、と男はあざ笑う。


なんだか緋次の方が愚痴を聞かされているような気がして。


ああ、そんなに哲学者が嫌いかと初対面の緋次でもわかった。




「ったく、どいつもこいつも下らないことばっかり考えて無駄に死んでいく馬鹿ばかりだ。

生きてるんだから好きなようにやりゃあいいだろ、あー馬鹿馬鹿しい」



舌打ちをして格子を蹴りあげた。


眉間し皺が寄る男の表情は実に物騒で殺気立っている。