「俺は、死んでも構わない」



「何故」


「生きる意味がないからだ」



「……」




嗚呼、ここで悲愴を男に語るつもりは一切ない。


ただ、どうして良いのか解らず思った儘を口に出しただけなのだ。



『生きる意味がない』などと、ずっと言い聞かされてきた言葉を今、初めて真に受けて。



緋次の返答を聞いた男は、また黒髪をガリガリとかきむしって何処か苛立ったように歯ぎしりをしている。




「ひとつ問うが、お前は誰だ」



「は?」



わけのわからぬことを、と憤慨の意をこめて男を睨んだが、しかし血が蠢くような紅い瞳は真剣そのもので、おどける様子はない。



誰だ、などと。




「俺の名前は…」


「名前じゃない、お前の生業を聞いている」



「生業?」



生きる業と書いて生業。


ここにいて浅葱の羽織を被っている以上、それは明白だ。