桜うらうら


 そこでようやく、振り向いたのです。表情は穏やかに微笑んでいらっしゃいましたが、目が泣いているように思えました。月の光や、輝き続ける桜の光を受けて、そう見えただけかもしれません。

「嘘、ですか?」

「はい。嘘、です」


 頷き、私が何も言わないのを見ると、ゆっくりと手招きをしました。「おいで」と、いつもの調子で囁きました。

「わたしは、さくらさんに何度も助けられました」

 嘘をついたという話と、どんな繋がりがあるのでしょう。全然違う話題に突然変わったようにも思えて、無意識のうちに眉が動きました。そんな私の様子を見て、旦那さまはやはりいつもと同じように、唇に優しい笑みをのせたのです。

「今朝、桜の木の話をしたでしょう。この木が病気になったとき、さくらさんが寝ずに励まし続け、風が強くなればあなたの体で包み込むように温もりを与えました。――そんな話を」

「村長さまは、そんなことまでお話になられたのですね」

「いいえ。村長からは何もお話しは伺っていないですよ。話したこともございません。……嘘とは、そういうことです」

 目を伏せ、いつもからは想像できないほど沈んだ表情を浮かべました。そのとき、桜の花びらがひらりと、一枚旦那さまの髪の上に落ちました。