桜うらうら


 不思議なことで、そう息を吐くように言った直後、彼はとても悲しそうな顔をしたのです。もうこの世にいない村長を思ってのことだったのか、それとも今後の出来事を想定して顔を曇らせたのかは、そのときの私にはわかりませんでした。ですが、そのときの表情が、とても強く心に残っていたのは言うまでもありません。

 普段の姿とかけはなれた旦那さまの様子に、私は言葉を探していると、先に旦那さまが口を開きました。ちょっと照れたような仕草に、私の鼓動が早くなります。

「少し話しすぎましたね。今日の朝餉はなんでしょうか。楽しみです」

 そうして、普段の他愛ない会話に戻っていきました。

 しかし、私は気づかなくてはいけなかったのです。

 普段は、私が起こすまで絶対起きてこない旦那さまが珍しく早朝目を覚ましたことも、毎日決まった朝餉しか出さない私に、さも楽しみだというように訪ねてきた言葉にも、今思えばどれも違和感しかないというのに、愚かなことに、微塵も疑いを抱いていなかったのです。