桜うらうら


 その日も、朝起きて一番に庭に出ると、私は桜の太くごつごつした幹に触れながら、語りかけました。「おはようございます。今日はいいお天気ですね」「聞いてください。昨日は私の話に旦那さまがたくさん笑ってくださいました」などと、いつものように他愛ない言葉を並べていると、すぐ後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきました。驚いて振り向いてみれば、旦那さまが縁側に腰をかけていたではありませんか。いつもならばぐっすりとお休みの時間なので、まさか聞かれているなどと思いもよりません。桜の木に話しかけるなどと、ご近所では子供っぽいなどと囁かれているのも知っています。そんな姿を見られた私は、さぞ耳まで林檎のようになっていることでしょう。ですが、彼の表情から、ご近所の方が私を嗤笑するような色はいっさい浮かんでいませんでした。


「さくらさんは、とてもお優しいのですね」

「そんなことはございません」

「いいえ。この桜の木が病気になってしまって、もう花も咲かないでしょうといわれた晩、さくらさんは寝ずに語りかけていたと聞いております」

「どこでその話を……」

「村長(ちち)から」