彼は、とても不思議な方でした。
人づきあいが苦手で、なかなか他人と馴染めない私の心をいとも簡単に解いたのです。温和な性格のおかげでしょうか。それとも、ゆっくりと間を置きながら話す、その口調のおかげでしょうか。もしかしたら、笑うと目尻に皺が寄る様子が、村長を思い出し安堵できたからかもしれません。どちらにせよ、私はいつのまにか彼に惹かれていったのです。彼も、私が少しずつ笑顔を見せるようになってくると、それまで以上に穏やかに微笑んでくれました。
そんなある日のことです。
私は朝いちばんに、庭に咲く桜に話しかけるのです。それは村長が生きている頃からの習慣でした。昨日あった出来事、今日これからの時間をどう過ごすか。何を食べて、何を感じて、いちいち報告をしていたのです。自分が桜の木の下で拾われたということもあり、なぜか親近感にも似た感情を桜の木に抱いていました。私には、妹などいませんが、日ごろ桜の世話をしていたせいか、可愛い妹のように思っていたのです。私よりもずっとお年寄りで、村長よりもずっと長生きの桜に向かって妹などと、他人が聞いたらきっとお腹を抱えて笑うでしょう。



