「ふーん。顔だけですか?」


声にまさに合うくらいに目を細め瞬きも遅く繰り返された。


「…そうだ。」


その目に戸惑いながら負けじと応じる。


「まぁそんなに意地張らないでください。やってたことは一緒なんですから。」


一息つくと神無は途端に表情を緩め笑顔がみられた。そこには諦めと楽しさが見えた。


「はぁ。そうだな。…あー帰りたい。」


神無の違う反応の変化に恭祐自身も気の緩みを感じた。そこで自分の身体が予想以上に緊張していたのだと気づいた。そして極度の疲労感に襲われた。


「ダメです。水無を守り切るまで帰しません。」


相変わらず恭祐の腕を掴み放そうとしない。そして少しずつ腕を引きながら奥へ奥へと進んでいく。奧では水無のはしゃぐ声も聞こえて神無の足取りは観賞するに至らず焦りが見え案外早かった。


「それはいつになるんだ?」


いい加減嫌気がさしてきた恭祐はいかにも怠いと言わんばかりの顔で気を緩め、溜め息と共に本音が出る。


「さぁ。悠祐先輩次第です。」


目だけ笑っていなかった。その顔が恭祐を視界に入れる。その時早く止めないと悠祐が危ういのだと心の中で感じた。


「なら、さっさと止めて帰る。」


歩く速度を更に上げ神無の前へ出て逆に引っ張るように歩き出した。するといきなり体重が後ろへかかりふらっと身体が傾いたが踏みとどまった。神無が足を止め恭祐の腕を思いっきり引っ張っていたのだ。


「待ってください。水無がまずどうするか見てからです。」


さっきの笑顔とは真逆の目尻の下がったいかにも困った顔をして見上げていた。


「どっちなんだ。止めたいのか止めたくないのかはっきりしたらどうだ。大体、どうするもこうするも本人次第だろう。」


恭祐は疲労より呆れに近い態度で振る舞っていた。このはっきりしない状況に苛立ちを覚えながら帰りたい気持ちを我慢していた。冷静な表情は変わらないが話し方と目で伝わるくらいの態度が現れていた。


「ホントは止めたいんですけど水無に気づいて欲しいんです。水無は…鈍感すぎるんです…」


「あー。面倒くせ。悠祐手が早いから本当に止めるなら今のうちだぞ。」


神無のいつもと違うしょぼんとうなだれた声と他人事のようにいつもと同じ冷めた口調が交互に水槽に響き渡る。