恭祐は自分に対しての苛立ちと何事にも動じずあわよくば楽しむ方へと考える悠祐に嫌気がさしていた。答えるのにも気怠く恭祐は結局また沈黙で返した。


「恭ちゃん?…どしたの?…恭ちゃん?」


悠祐はそれでも諦めず名を呼び続ける。恭祐は完全に脱力し壁に上半身の全てを預けた。


「なぁ。悠祐。…俺って…」


それきり押し黙った。やっと話しかけてくれた相手に喜びを感じたがそれ以上進まない会話に疑問を感じた。


「…何?俺って?どうしたの?」


すると遠くから段々近づく足音と騒ぎ声が聞こえてハッとした。
自分がここに籠もっていればドアに向かって叫んでいる悠祐が怪しまれる。かといって出れば悠祐に捕まってそのまま連れ出され悪い方へいけば…。今の悠祐の力には自分は勝てない。言葉でなら勝てる自信はあるが、このままでは次の日には影で噂が立ち広まっていくだろう。
どうすべきか思案していると騒ぎ声がトイレを目的にしているのだと分かった。そしてその声は足音と共に段々と近い位置へと変わっていく。
恭祐は苛立った顔を浮かべながらさっと鍵を開けドアの前に立っていた悠祐の腕を引くと再びドアを閉めた。


「ありがと。」


ほっとしたような微笑みが返ってきた。恭祐は悠祐と一瞬目を合わせたがすぐに逸らし右へと視線と顔を流した。そして腕を組んで近くにあった壁へもたれかかる。


「仕方ないだろ。誰かくればお前が怪しまれる。そうなれば相手は俺に限られてくる。面倒なことに巻き込まれたくないからな。」


「うんうん。それに、恭ちゃんがそーんな淫らな格好ているなんて思いもしないよね〜。」


悠祐は恭祐を上から下まで見回して言った。そこで初めて気付いた。悠祐の態度に気分を害し気を取られ服のことまで考えていなかったのだ。