思い出にひたっていた私は、急に声をかけられてビックリした。
「な、なに?」
「名前」
「は?」
「だから、名前なんつーの?」
八神は笑いながらいった。
無表情もかっこいいのに、笑った顔はもっとかっこよくなった。
セットされた髪が光に当たって茶髪になっている。
こりゃあ、女子の皆さんはベタ惚れだな…
「え、と…篠原 青葉だけど」
「俺は八神 優斗だよ。アオバよろしくなっ」
彼は白い歯をだして、子供のように笑った。
「はぁ?何で下の名前なのよ」
「だって、それがアオバの名前じゃん」
彼はそう言いながら、教科書の整理をし始めた。
何こいつ…
やっぱり苦手なタイプだ。
私はそう思いつつも、彼の笑顔に見入ってしまった自分がいた事に気がついていた。
私には中学生の頃好きな人がいた。
付き合っていた事もあった。
でもどの恋にも終わりがきた。
その理由は
「お前、シグレの事好きなんだろ?」
「そんな訳ないじゃんっ」
「嘘つくなよ…」
嘘とか、言い訳とかじゃなく
ほんとにシグレとは何もない。
…何もないのに。
皆そろってシグレの事を言うのだ。
ユキに悩みを打ち明けたら、
「そりゃ、いつでもどこでもシグレと一緒なんだから、彼氏も勘違いするわよ」
と、言われた。
確かに、彼氏ができてもシグレは私から離れなかったし、
私もシグレから離れなかった。


