その日、北の地に向かうフェリー乗り場にいた遥は、自分に近付いて来る屈強な男に見覚えがあった

…確か…リームさんの店で…
そうだ、熊野さん…だったか?

どうしてこんな最果てに熊野がいるのか分からないが、自分に向かって歩いてくる

「こんにちは…遥さん、お久し振りです」

人の良さそうな笑顔で、そう声をかけてきた

「…あぁ…熊野さん…
ご旅行ですか?」

あの日以来、知り合いに出会うなど初めてのことだ

しかも九州で…フェリー乗り場でなんて恐ろしい程の偶然だ

しかし、その後ろから息を切らせて駆け寄るマサを見て合点がいった

…僕を探しに来たのか…
ここで見つかるなんて…熊野さんは腕のいい探偵なんだな…

怒った表情のマサを見ても何故か冷静にそんなことを考えていた

ベンチからのっそりと立ち上がると、左頬にガツンと体がよろめく程の衝撃が走った

…あぁ…マサに殴られたんだな
仕方がないか…こんなにも迷惑をかけたんだ…

ベンチに倒れこみ、マサの怒りに油を注ぐことを口にした

「一発でいいのか?」