『でも江里子さんって気丈ですよね、僕なんかもう気持ち悪くて、目眩はするし、足は震えるしで情けない限りです』

そう言いながら照れくさそうに笑う雄一郎を見て、江里子は夫に今までに無い人間臭さを少し感じた。

機械のような完璧人間で、江里子にかけられる優しい言葉も、微笑みも全てインプットされたデータ通り…に感じていた江里子だったが、さっきの雄一郎は思いのほか身近に感じる。

今更ながらに自分の夫を身近に感じるというのも変な表現だが、雄一郎に釣られて江里子も笑みを返した。

既に殺害された陣内多恵の死体は運び出されている。時間は間もなく正午になろうかという頃だ。

『次、長内江里子さん入って下さい』

玄関ホールから廊下に入って最初の部屋である倉庫から制服の警察官が顔を出した。

その横を疲れ切った表情の泰明がノロノロと出てくる。