ざわめきを極めたようなホールで江里子はそっと雄一郎の横顔を見た。

あまりの凄惨な事件で青ざめてはいるが、その端正な表情は崩れる事がない。

資産家であるが故に色々な体験をしたであろう雄一郎は、これぐらいの事では動じないのかもしれなかった。

それに比べ平凡極まりない人生を送ってきた江里子にとっては一大事である。

だいたい死体そのものすら幼少の頃、祖父の通夜で見たきりである。

あの大量の血痕、そして警察の手によって運び出される時に見てしまった多恵の表情… 思い出しただけで吐き気を催しそうになった。

『江里子さん大丈夫?』

『はい…でも少し気分が…』

まだ残る血の臭いにむせ返りそうになりながら江里子は答えた。