『すいませんでした…』

消え入りそうな、か細い声でミサ子が呟いた。

(落ちた!…)

殆ど外からは読み取れない程、僅かに口元を歪めた鬼頭は平静を装って事務的に口を開いた。

『謝らなくて良いですよ。裁判で偽証した訳じゃない。前に別の刑事が来た時は事件のショックで忘れていただけでしょ?そして今思い出した…それで良いじゃないですか』

『でも…でも私、その瞬間を見た訳じゃ無いんです。これは本当です。だから…』

そこまで言ってからミサ子は口を閉じたが鬼頭は敢えて沈黙を続けた。

一度坂を転がりだした人間は何も言わなくても口を割る。

『尚人…尚人が廊下に居たんです』

『尚人さんと申しますと、あなたの御子息ですね?確か大学から、こちらの方に帰省中の』

『はい…事件が起こる前の晩に突然帰って来まして…私の部屋の隣の倉庫で寝ていました』