ミサ子は何処から切り出せば良いのか、それよりも何とか、この意地の悪い刑事から逃れる術は無いかと哀願するように鬼頭を見つめたが、徒労に終わり頭を垂れた。

『私は何時間でも待ちますから、どうぞ奥さん気持ちの整理をつけて下さい』

警察手帳から目を離さず鬼頭は呟いた。

…大学を卒業してからずっと刑事一筋である。

学生時代から特に趣味も無くクラスでも殆ど目立った事は無かった。

友人と呼べる人間も居ない。

全てうわべだけの付き合いである。

当然独身で長野県警の寮に一人で住んでいた。

食べる事にも無頓着で、殆どをインスタントで済ませる。着ている服もヨレヨレのスーツだけ。